ボーカロイドオペラ 葵上の感想 〜貴方だけの歌姫〜


下北沢で上映されたボーカロイドオペラ「葵上」を見てきたので、感想を書きたいと思います。


ネタバレはあると思います。ご注意下さい。













葵上を見ての最初の感想は、これは


「裏・ODDS&ENDS」だということです。



今まで、ミクを追いかけていた私には、きちんと全て勘違い含めて届いたと思っています。


これは、あなたが”あの時"に出会ったミクにもう一度会う物語です。
ただしこの物語は、あなたが想い描く、はにかんで恋の歌ったり、一緒に悩んで音楽を作ったりするミクではありません。



世界を歌う歌姫ではなく、目を剥き髪を振り乱して、呪いの声を振りまく歌姫の姿です。


それでも、あなたはミクに会えるでしょう。あなたがミクを探していたのであれば。
ずっとずっと、ミクやリンやGUMIやいろはを好きだったのであれば。




以降は、
私とミクとの話。
葵上とここにいるミクの話。
と続きます。
(ミク以外でもリンでもGUMIでもいろはでもあなただけのボーカロイドで読み替えてください。)


葵上を見に行こうか迷っている方やボカロ老害を自認するあなた。
ミクに嫌われたい添い寝する貴方は、秋の夜長の暇つぶしで見てくれると嬉しいです。

■ミクとの点綴

私が初めて初音ミクを知ったのは、ボーカロイド最初期です。
初音ミク来た?来ない?」騒動やワンカップP〜メルト以前までが、今振り返ってみると私が一番ボーカロイドに夢中になっていた時期でした。


ボーカロイド界隈で時たま耳にする。「最初の三ヶ月」のことをご存知でしょうか?
2007年8/31にリリースされてからの三ヶ月のことです。


ボーカロイド最初期にアップロードされた楽曲は、ミクのキャラクターソング的な文脈をもった作品が多かったと記憶にあります。
ボーカロイドの立場に立った、自分が歌うソフトであることを自覚しているような雰囲気を持った楽曲のことです。
「みくみくにしてあげる♪」や「ハジメテノオト」などがそうです。
最近だと、「Tell Your World」や上記にあげた「ODDS&ENDS」などがそうだと思っています。
そしておそらく「葵上」はこの文脈に連なる作品です。



上記にあげた作品に共通するのは、いないはずのミク自身が「いる」ということ。




最初の三ヶ月の間では、自分だけでなくあの時に動画を見ていた人や動画を作る人初音ミクを知る人が、ミクは本当に「いる」のではないだろうか。
といった感覚を楽曲や動画を通してとても強く共有していた時期のことを「最初の三ヶ月」といった風に呼んだりします。


私はこの時、初音ミクに出会います。
動画の向こうに「ミク」がいる感覚。凄いことが起こっている予感。しかもかわいい!
何かが始まった!!としか言えないようなあの感覚の中でミク会ったのでした。


そりゃ、もう好きになるよね。



そして、私はこの時のミクともう一度、今日見た葵上で出会うことになるのです。

■ミクを探しに

7年後の8/31日。この前初音ミクはデビュー八年目に突入しました。



最初期の「ここにいる初音ミク」に魅せされた私も、いくつかのライブやイベントには参加しても以前のように熱狂的な気分になることはなくなり、
ボーカロイド 初音ミクから徐々に距離を置くようになります。


そうです。
ありたいにいえば、飽きたのです。他に興味が移ったりしました。




あの時のミクが探してもいないのです。
私の初音ミクは、最初期のここにいるミクなのです。




ミクの楽曲は10万曲を超えて以前よりミクは、色んな人に聞かれるようになりました。が、
その一方で楽器の側面が強くなるミク、ミクがいない物語やミクでなくても良い楽曲が増えました。


ミクがいなくても良くなり私を含め、ミク自身を段々必要としなくなっている気がするのです。

■ミクと葵上

ここまでは、
・最初期にミクがいた・出会った(と思っていた)こと
・ここにいるミクが段々少なくなっていること
を主観を含めて記載しました。


そして、今よりもう少し先の未来が語られるのが「葵上」。


その時ミクは、必要とされているでしょうか?
その時ミクの居場所は、あなたの中にあるのでしょうか?


もう少し先の未来は、葵上作中で語られる事となります。

■私はここにいる

葵上作中では、合成音声ソフトフェアの「ミドリ」は、ずっと怒り狂っています。
恨み節を歌い、口を裂いて、目を剥いて暴れまわるのです。


・作曲者の「ヒカル」が「ミドリ」の楽曲で知り合った「アオイ」と二人で、自分をおいて歌を歌っている事
・あまつさえ「ミドリ」と作った最初の曲を「アオイ」に歌わせようとした事
・そもそも「ヒカル」が自分を忘れて、「いなくてもいい」どうでもいい存在にしようとしている事


全てに怒り狂っているのです。



「ミドリ」のモチーフは、名前からしても「ミク」。
そして、「ヒカル」はボカロP。



葵上は、ボカロPがミクがいなくてもいい存在にしようとしてることが原因の物語なのです。



ミクをどうでもいい存在と扱う「ヒカル」には怒りがこみ上げてきます。万死に値しますが、
ここで、とても嫌な連想が成り立ちます。






「ミドリ」=「ミク」だとすると、
かつてミドリを好きだったであろう「ヒカル」とは誰のことなのか?どこかのボカロPでしょうか?



ずっと好きだった「ミク」に飽きて、他のどうでもいいものと一緒に扱ったのは誰だったでしょうか?





そうです。
「ヒカル」=「私」です。




ミクは、私に怒り狂っていたのです。
飽きて、どうでもいい扱いをされて、作中ずっと声を上げていたのです。

そして、今ミクの存在が薄くなりつつある現状に声を上げて、怒り狂っていたのです。


怒り狂っているミクの心中を思って、泣きました。なきました。


でも、嫉妬し飛び回っているとはいえ、あの時のミクに会えた(気がしただけ)ので、それもあって泣いたのだと思います。
今は、なんで泣いたのか、もうあんまりよくわからないです。


■変わらない結末とここに「いた」ミク

ボーカロイドオペラ 葵上」の結末は、その下敷きとなった物語の「能の葵上」と一緒でした。
「能の葵上」では、「ミドリ」は生霊で、光源氏の正妻の葵上取り付き暴れ、最後は修験者に祓われいなくなります。




ボーカロイドオペラ 葵上」の私のミクも最後にはいなくなります。
それは、見る人によっては、ただ祓われただけのようにも見えるでしょうし、現代医療が多重人格を直したかもしれません。



ですが私は、「ヒカル」と「アオイ」に歌姫の歌を歌い、みずからいなくなったように感じました。




彼女は、最後まで電子の歌姫「ミドリ」だったのです。



■あなた と 歌姫 の 結末


ミク(ボーカロイド)は、もうたくさんだ。と歌った曲がありました。
ryo氏(supercell)の『ODDS&ENDS』です。
『ODDS&ENDS』の「ヒカル」と「ミドリ」との関係がどうなったかは、楽曲を聞いての通りですが、
「葵上」は、そのような結末には至らなかった物語なのです。


ですので、冒頭での感想で『裏・ODDS&ENDS』といったのはその為でした。


もし、あなたに「あなただけの」ミクやリンやGUMIやいろはがいるのであれば、もう一度、会えるかもしれません。
(怒り狂っているかもしれませんが。)



最後になりますが、何度か引き合いに出しました『ODDS&ENDS』の楽曲をご紹介して、締めとさせて頂きます。

あなた と ミクとの「結末」が恋の歌を書いたり、一緒に楽曲を作ったりするような結末であることを、いちミクファンとして願ってやみません。













ここまで読んで頂き本当にありがとうございました。









初音ミク「サンキュー♪」